イベリコ豚と白豚のハム(ハモン)と豚肉製品

ドングリを食べて育ったイベリコ豚のハムはグルメ食材として知られており、初めて味わう人の舌をたちまち魅了します。この生ハムは紙のように薄いスライスを食することで、芳醇な香り、繊細な肉の味、霜降りのイベリコ豚特有の脂肪の味を楽しむことができます。一価不飽和脂肪酸が豊富で、脂肪が口の中で溶けて流れ出し、強い風味を長く味わうことができます。

イベリコ豚

豚肉はスペインの美食家に常に愛されてきましたが、その中でも在来種のイベリコ豚は際立って特別なものでした。イベリコ豚はヨーロッパでも残り少ない放牧種です。デエサと呼ばれる自然環境、豚を放牧する飼育方法、そして、職人技を駆使して作られる豚肉加工品は古来の伝統を今に伝える文化的遺産なのです。

イベリコ豚はかつて地中海地域の盆地に生息していたイノシシの子孫です。その特徴は自然のデエサ環境に適応し、そこで得られるものを食べてきたことに起因します。デエサとは草地やコルクガシの森林地帯のことで、スペインの中央から南西地域、サラマンカ県(カスティーヤ・イ・レオン州)、カセレス県・バダホス県(エストレマドゥーラ州)、ウエルバ県・コルドバ県(アンダルシア州)、トレド県・シウダー・レアル県(カスティーヤ・ラ・マンチャ州)を含む広範囲の地域に広がります。デエサは複雑かつバランスの取れた生態系を保ち、豚・牛・羊の放牧、穀物の栽培、コルク生産、狩猟に用いられています。230万ヘクタールに及ぶこの独特の生態系を維持することで土地の浸食を防ぎ、一帯の景観や動植物を保護してきました。

イベリコ豚の特徴としては、環境に適応した長い脚、強く伸びた鼻、褐色の肌と蹄が挙げられます。豚はデエサにある物を何でも -草や下草から野生の豆まで- 食べますが、脂肪に富んだトキワガシやコルクガシのドングリは何よりも好物です。

このバランスの取れた自然の食生活は、感覚を刺激するような高品質の豚肉の主要因です。豚は脂肪を筋肉に浸潤させて蓄えることができるため、肉が特にしっとりとして柔らかくなるのです。

この種の豚は白豚に比べて育成期間が長い上、多産ではありません。イベリコ豚からとれる肉の量が他種に比べて少ないことも重なり、イベリコ豚の成育数は多くありません。そのため、イベリコ豚肉や豚肉加工品が最高の質を誇っているにもかかわらず、スペインで生産されている豚全体から見るとイベリコ豚の占める割合は小さいのです。

育成期間の後半にかけてデエサでドングリを探す間、豚は常に運動します。この運動と浸潤した脂肪とが相まって、しっとりして引き締まった肉質が作られます。夏の終わりから初秋にかけて豚が自由に放牧される期間のことをモンタネーラといいます。モンタネーラの間に最低でも50%ほど体重を増やした豚をデ・ベジョータ(ドングリ育ち)と呼びます。補完飼料を与えられた場合はレセボと呼びます。穀物のみで飼育された場合はセボ、その中でも屋外で育てられた場合をセボ・デ・カンポと呼びます。最後に、ハモン・イベリコ、ロイン、ロイン・ソーセージに付けられるラベルには、それぞれの製品がイベリコ・プーロ(両親ともに純血イベリコ種である場合)、あるいはイベリコ(イベリコ種血統が50%以上である場合)なのかが記載されます。

イベリコ・ハム

毎年マタンサ(豚の屠殺日)には、デエサの森林地帯にすむ人々は次のマタンサまでの豚肉や豚肉加工品を蓄えることができます。イベリコ豚の生産者は今もこの伝統を守り、ジューシーで香り高いイベリコ豚から様々な塩蔵肉製品やソーセージを作ります。

イベリコ豚の最高の部位―後脚(ハモン用)と前脚(パレタ用)―は、誰もが世界最高と称える熟成生ハムに使用されます。ハモンとパレタの多くは、現在も伝統的技法を用いて、海抜600m以上にある自然乾燥室で製造されます。ギフエロ(カスティーヤ・イ・レオン州サラマンカ県)、モンタンチェス(エストレマドゥーラ州カセレス県)、ハブーゴとアラセナ(アンダルシア州ウエルバ県)などの町は熟成生ハムや他のイベリコ豚肉製品で有名です。

製造期間は、塩漬け、寝かし、乾燥、熟成、といった工程を経てほぼ2年に及びます。技術革新によって最適な製造条件を再現することは可能になりましたが、技術、経験、気配りといった職人技は今でも欠かせない要素です。ハモン・イベリコの熟成期間は約18か月ですが、大きなハモンの場合は24か月を超えることもあります。

ドングリを食べて育ったイベリコ豚のハムはグルメ食材として知られており、初めて味わう人の舌をたちまち魅了します。この生ハムは紙のように薄いスライスを食することで、芳醇な香り、繊細な肉の味、霜降りのイベリコ豚特有の脂肪の味を楽しむことができます。一価不飽和脂肪酸が豊富で、脂肪が口の中で溶けて流れ出し、強い風味を長く味わうことができます。

豚肉加工品

ロインをそのまま使ったソーセージ(ロモ)は肉に食塩、パプリカ、ニンニク、オレガノ、その他香辛料をまぶして作ります。そして天然のケーシングに詰めた後、最低4か月熟成させます。チョリソ・イベリコはその強い香りがよく知られており、赤身肉にニンニク、パプリカ、その他香辛料をまぶし、数多くある伝統的なレシピの中の一製法で製造されます。その他には、サルチチョン・イベリコ(チョリソと同様の製法だが、香辛料は強く、パプリカは入れない)、モルシージャ(ブラッド・ソーセージ)、モルコン(赤身肉に食塩、ニンニク、甘めのパプリカと胡椒をまぶして作ったあらびきソーセージ)などがあります。

精肉

イベリコ豚の肉は精肉としても格別です。最近まで豚の生産地域以外では手に入りませんでしたが、今日ではスペインやその他、特に日本の有名シェフのメニューを飾っています。イベリコ豚で好まれる部位は、ソロミージョ(ヒレ肉)、プレサ(肩ロース)、プルーマ(トップロイン)、ソルプレサ(耳と目の間の部位)、セクレト(豚トロ)、そして最近では、カリジェーラス(ほほ肉)も人気です。

結論として、スペインの食文化を世界に知らしめた主な要因の一つがイベリコ豚であるといっても過言ではありません。

豚肉はスペインの美食家に常に愛されてきましたが、その中でも在来種のイベリコ豚は際立って特別なものでした。イベリコ豚はヨーロッパでも残り少ない放牧種です。

ハモン・セラーノ(熟成生ハム)&チャルクテリーア(豚肉加工品)

長い歴史のあるスペイン産熟成生ハムやその他肉加工品は、地理、気候、歴史、文化、さらには宗教的な要因の組み合わせによるものです。なぜなら、豚の飼育は、キリスト教世界全体を通してローマ文明から受け継がれているものの一つだからなのです。

ハモン・セラーノとその他熟成生ハム

もしもスペインの食文化を代表する食品を一つ選ぶとしたら、それは豚肉加工品の頂点に立つ熟成生ハムであるかもしれません。スペインを初めて訪れる人は、誰もが熟成生ハムがどることに驚きます。全ての食料品店やレストランにあるというだけでなく、もはやスペイン人の潜在意識にある本能のようなものかもしれません。

長い歴史のあるスペイン産熟成生ハムやその他肉加工品は、地理、気候、歴史、文化、さらには宗教的な要因の組み合わせによるものです。なぜなら、豚の飼育は、キリスト教世界全体を通してローマ文明から受け継がれているものの一つだからなのです。当時からモモ肉は塩をまぶして何日か置いた後、山の空気で熟成させていました。セラーノとは、元々は「山から来た」という意味です。今日ではこの言葉は白豚の熟成生ハムという意味でつかわれますが、ここでいう白豚とは、伝統的特産品保証制度(TSG)認定のハモン・セラーノ用ラベルを貼るための条件を満たす種類、特にデュロック種、ランドレース種、そしてラージ・ホワイト種などを指します。イベリコ豚で作った熟成生ハムは、ハモン・イベリコと呼ばれます。

現在熟成生ハム生産量と消費量ともにスペインが世界1位です。伝統的な職人の製造法での加工が続けられていますが、昔ながらの自然乾燥室の多くは近代的な冷蔵室にとって代わられ、室温・湿度を製造に最も適した条件で管理しています。

熟成生ハムの品質は、精肉の産地、豚の種類、あるいは餌の種類、屠殺方法、製造技術や工程の長さなどによって、いくつもの等級に分けられます。熟成期間は最低7か月と規定されていますが、未加工肉重量や他の要因によってそれ以上長くなることもあります。

いくつかの町や地域は、伝統と品質を誇る白豚熟成生ハムの特産地として有名になり、それぞれの品質証明タグが付けられます。アラゴン州の原産地呼称制度(PDO)ハモン・デ・テルエル、アンダルシア州グラナダ県アルプハラの山々の地理的表示保護制度(PGI)ハモン・デ・トレベレスなどです。

これらの製品は原産地名で知られた地域特産品であり、TSGハモン・セラーノの規定に対応して「セラーノ」という一般的な名称が用いられる製品とは異なります。

質の良いハモン・セラーノの切り身はつやがあり、ピンク~赤紫の色をしています。しっかりとした歯ごたえで繊維の少ない肉質、強い風味があり、繊細、塩分は強くなく、滑らかな舌触りと独特の香り、といった特徴があります。

熟成生ハムはタンパク質、ビタミン、ミネラルが豊富です。適度な脂肪があり、その多くは不飽和脂肪です。製造工程で食塩が加えられるため、微生物学的な面でも安全です。最近では、新しい技術によって低塩加工が可能になり、より健康的でバランスの取れた製品が作られています。

スペイン人は熟成生ハムが大好きです。昼夜を問わず、どんなお祝いの席にも熟成生ハムが供されます。紙のように薄くスライスした熟成生ハムと美味しいパン、これこそ典型的なタパスです。しかし供され方は様々です。例えば、新鮮なトマトやメロン、その他フルーツに添えて、ガスパチョやサルモレホといった冷たいスープの飾りとして、あるいは、サラダに入れたり、加熱する料理に加えたりしても素晴らしい味を引き出します。

豚肉加工品

スペインの地理、歴史、伝統が組み合わさることにより、数多くの腸詰製品が生産されています。熟成生ハムやイベリコ豚肉加工品と並び、スペインの食文化を特徴づける食材です。

様々なスペイン産腸詰製品を見ていくにあたり、まず製造方法別に見ることにしましょう。最初に、一般的にはデュロック種、ランドレース種、ラージ・ホワイト種から作られています。そして、非加熱製品(製造過程で乾燥・熟成される)と加熱製品の2つのカテゴリーに大きく分けられます。前者の代表はチョリソです。時間や空気で成熟するのだけではなく、豚肉に加える塩や香辛料、そして味の決め手になるパプリカも重要です。

加熱製品を代表するのはモルシーリャ(ブラッド・ソーセージ)で、数多くの種類があります。他にも、加熱後熟成させたブティファラは地中海地方(特にカタルーニャ州)で、燻製腸詰はガリシア州や降雨量の多い北部スペインの山岳地帯で作られています。

カタルーニャ州、バレンシア州、バレアレス諸島の地中海地方では、ほとんどの豚肉加工品が加熱処理されており、香辛料はパプリカよりも黒コショウが良く使われます。この地方で例外的にパプリカを使ったものがマヨルカ島の有名なソブラサーダです。カナリア諸島を含むスペインのその他の地域では、特にチョリソ、ブラッド・ソーセージには塩蔵法が通常用いられ、パプリカが風味づけに用いられます。

いずれにせよ、スペイン国内で先祖代々のレシピや腸詰つくりの伝統のない地域など存在しません。多くの製品は地元の名称を使い続けていますが、カスティーヤ・イ・レオン州のモルシーリャ・デ・ブルゴスやPGIチョリソ・デ・カンティンパロ(セゴビア県)などのように地元を離れて広く名を知られている製品もあります。

豚肉加工品の多くはそのまま食べますが、ロースト、グリル、フライにしたり、様々な郷土料理の材料として使われたりする種類も多くあります。例えば、有名なファバダ(アストゥリアス州のインゲン豆のシチュー)にはアストゥリアス州のチョリソ、ブラッド・ソーセージ や豚の脂肪は欠かせません。同様に、新鮮なチョリソが入っていないパタタス・ア・ラ・リオハーナは考えられませんし、コシードと呼ばれる様々なシチュー料理には地元の豚肉加工品が欠かせません。多種多様な風味、香り、形状、肉質、色を持つスペイン産豚肉加工品は世界的にもユニークで、西洋の豚肉料理に大きく貢献しています。
スペインの地理、歴史、伝統が組み合わさることにより、数多くの腸詰製品が生産されています。熟成生ハムやイベリコ豚肉加工品と並び、スペインの食文化を特徴づける食材です。

イベリコ豚と白豚のハム(ハモン)と豚肉製品の産地

Spanish Cured Meats and Sausages - Protected Geographical Indications (PGI) 
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Spanish Hams - Protected Designations of Origin (PDO) and Protected Geographical Indications (PGI) 
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