精肉(イベリコ豚/白豚、牛、羊、その他)

精肉 (Carnes Frescas)

スペインの家畜や家禽は、国内の多種多様な地理的また気象条件に影響を受けて飼養されています。北部の緑豊かな牧草地域を除き、スペインの気候は概ね乾燥した気候であり、食肉産業に供給される家畜の大部分は穀物飼料を使った集約畜産によるものです。しかしながら、現在においても多くの在来種が、それぞれの自然環境に調和した、昔からの伝統的な飼養方法によって育てられています。

牛肉

スペインには約640万頭の牛がいますが、その約半数は牝牛です。牛の飼養はカスティーリャ・イ・レオン州、 カスティーリャ・ラ・マンチャ州、エストレマドゥーラ州とアラゴン州において盛んです。北部の緑豊かな牧草地域を除き、スペインの大部分の地域では乾燥した気候で、そのため家畜の大部分が穀物飼料による集約畜産で生産されています。

スペインの畜産業で扱われる牛の種類は様々ですが、特筆すべきは、現在においてもスペイン独自の在来種が、それぞれの自然環境に適合した伝統的な飼養方法で飼育されていることです。このためEU(欧州連合)の品質保護制度、特に地理的表示保護制度【PGI: Protected Geographical Indication】(スペイン語ではIGP: Indicación Geográfica Protegida)は在来種のアイデンティティを保全するだけでなく、公に定義を明確化し保護を与えることにより、消費者に本物の味を届けることに一役かっています。

地理的表示保護制度の認証を受けている地域で飼育されている代表的な在来種の牛は次のとおりです。

グリーンスペイン(スペイン北部の降雨量の多い地域)の山岳地帯:ガリシア州(I.G.P Vaca Gallega/Buey Gallego)の赤毛ガリシア種(Rubia Gallega)、アストゥリアス州(I.G.P. Ternera Asturiana)の アストゥリアーナ・デ・ロス・バジェス種(Asturiana de los Valles )、カンタブリア州(I.G.P. Carne de Cantabria)のトゥダンカ種(Tudanca)、バスク州(I.G.P. Carne de Vacuno del País Vasco/Euskal Okela)とナバラ州(I.G.P. Ternera de Navarra/Nafarroako Aratxea)のピレネ-種(Pirenaica)。

中央メセタおよび南部(乾燥している地域):カスティーリャ・イ・レオン州サラマンカ(I.G.P. Carne de Salamanca)のモルーチャ(Morucha)、アビラ(I.G.P. Carne de Ávila)のアビレーニャ・ネグラ・イベリカ(Avileña- Negra Ibérica)。この種はアビラ県からマドリード州近くまで延びるグアダラーマ山脈(I.G.P. Carne de la Sierra de Guadarrama)でも広くみられる在来種です。エストレマドゥーラ州(I.G.P. Ternera de Extremadura)ではレティンタ種(Retinta)が代表的な牛です。

羊肉

羊はスペインの地形と気候にとても適した動物で、今世紀初めには 2400万頭を超える数が飼育されていました。(現在は1600万頭前後)。 中世以降スペインは羊毛の輸出大国でしたが、19世紀に入ると、羊の飼育は徐々に肉と乳の消費目的に変わってゆきました。スペインでは羊を飼育するだけではなく、その消費も盛んで、スペイン料理の代表的な食材の一つに数えられます。それは羊肉がイベリア半島にともに暮らして来た、キリスト教徒、イスラム教徒とユダヤ教徒に共通する食材であり、食文化の豊かさに貢献してきました。

斜面が多くて乾燥したスペインの大部分の地域に適応した様々な羊の種類のなかで、メリーノ種(Merino)は優れた質の羊毛で有名ですが、今ではその肉も、柔らかく、低脂肪で、かつそのピンク色の肉から人気があります。

アラゴン州では様々な品種の羊の畜産が盛んです。この州の地理的表示保護制度(PGI Ternasco de Aragón)の保護のもとで飼育されている在来種はアラゴン種(Rasa Aragonesa)、オヒネグラ・デ・テルエル種(Ojinegra de Teruel)とロージャ・ビルビリターナ種(Roya Bilbilitana)です。スペインのほとんどの地域では一歳未満の仔羊を「コルデーロ」(cordero)と呼んでいますが、この地理的保護制度の名称に使われている「テルナスコ」(ternasco)はアラゴン州で親しまれている仔羊を指す方言です。

カスティーリャ・ラ・マンチャ州の地理的保護制度(I.G.P. Cordero Manchego)のもと、ラ・マンチャの平原に起源をもつ在来種は、たくましいマンチェガ種(Manchega)です。精肉として消費するためにも飼養されていますが、この名をきいて最初に浮かぶのは、この羊の生乳を使った、有名なマンチェゴ・チーズではないでしょうか。

カスティーリャ・イ・レオン州の地理的保護制度(I.G.P. Lechazo de Castilla y León)の保護を受ける羊の種類はチュロ種(Churro)、カステリャーノ種(Castellano)とオハラド種(Ojalado)です。特にこの地方で有名なものが、「レチャソ」(lechazo)と呼ばれるもので、「乳飲み仔羊」を指す方言です。同様にナバラ州(I.G.P. Cordero de Navarra/Nafarroako Arkumea)のコルデーロ・レチャル(Cordero Lechal)も「乳飲み仔羊」としてよく知られています。

豚肉(一般的な白豚肉)

スペインはEU域内で二位、世界的には四位の豚肉の大生産国、同時に、消費大国でもあり、3000万頭以上の豚が飼養されています。スペイン料理において豚肉は欠かせない食材で、スペイン全土で消費されています。人々の暮らしにも浸透しており、比較的最近まで農村地域では、各戸ごとに豚を1、2頭飼育することが一般的に行われていたほどです。育てた豚のと畜は大きなイベントで、その準備に忙しくしながら待つ、村人総出のお祭りでした。と畜した豚は、どの部位も無駄にする事なく、精肉として、また、さまざまに加工した保存食品として、余すところなく使い切りました。

白豚の飼育は生産効率のよい畜産です。スペインでは高度に産業化された集約畜産が行われており、先進国で育てられている一般的な品種が飼育されています。

イベリコ豚肉

有名なイベリコ生ハムやその他のイベリコ豚加工食品の原料として知られる、スペインの在来品種のイベリコ豚は、精肉としても非常に素晴らしい品質を誇っています。イベリコ豚の遺伝的特性のおかげで脂肪が筋肉の中に浸透する脂肪交雑があり、そのため、独特な食味と香りを備えた、霜降りのジューシーな肉を生み出します。イベリコ豚の精肉の人気はますます高まり、スペイン国内外、特に日本で、第一線で活躍するシェフに選ばれ、多くのメニューに取り入れられています。最も好まれる部位の中にはヒレ肉(solomillo)、肩ロース (presa)、トップロイン (pluma)、豚トロ(secreto)、そして最近は下あごほほ肉 (carrilleras)、 眼球裏の小さな楕円形の肉の塊 (sorpresa)などがあります。

3百万頭をわずかに超える頭数の山羊が飼育されています。山羊はスペインの地形と気候にとても適している動物で、特に地中海沿岸と南部地域で盛んに飼養されています。精肉として消費される山羊肉の大部分は、離乳期の仔山羊のものです。若い山羊の肉は柔らかく、風味豊かであり、スペイン国内でも特にアンダルシア地方やカナリア諸島などの地域で郷土料理として好まれています。

家禽肉

スペインで飼育されている家禽の種類は多く、ウズラ、七面鳥、アヒル、なかにはダチョウも飼育されています。しかし最も一般的に産業として行われているのは、従来のにわとりです。一般的に穀物飼料を与えて飼養し、素晴らしい肉を付けた、大型の鶏に育てています。ハイブリッド種が多い中、大きな注目を浴びる在来種もあり、代表的な地理的保護制度の保護のもとにあるのはカタルーニャ州の(I.G.P. Pollo y Capón del Prat)バルセロナ県を起源とするプラット種(Prat)の若鶏と去勢鶏です。この種の特徴として、スレートブルーの色をした脚、真珠のような艶やかな色の肌、むね肉は広めで肉厚で、甘い肉質をもつ鶏です。

スペインの養鶏業9割は「ブロイラー」と呼ばれる1.5キロぐらいの若鶏で占められています。スペインの養鶏産業はEU域内の総生産量の13%にあたります。また、七面鳥などの珍しい家禽肉も市場のシェアを増やしつつあります。

ジビエ肉

現在スペインでは、狩猟はスポーツとして厳しいルールと規制により管理され行われていて、狩りが行われている地域は多数残っています。

スペインで最も代表的な狩猟の対象となる野鳥はキジ科のアカアシイワシャコで、肉質の良さで知られており、中央部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州にもっとも大きな群れが棲息しています。この地域はやまうずらのエスカベッチェと言われるマリネの料理が有名です。

スペイン北部とアンダルシア州ではモリバトもジビエの鳥として人気があります。うずらはスペイン全土に生息していて、8月9月が狩りのベストシーズンです。うずらはやまうずらよりも小型の鳥ですが、繊細な味の肉質で知られています。ウサギとノウサギもスペインの多くの地域で広く狩猟が行われています。その風味豊かな肉は、数多くの郷土料理に使われています。

山岳地帯はイノシシ、シカ、ノロジカやその他の大型の野生動物が棲息しています。主にレストラン向けに、これらの大型狩猟獣のジビエ肉を専門的に販売している企業もあります。様々なジビエ料理の方法は、スペイン各地の伝統的な料理の中にもみられます。

精肉(イベリコ豚/白豚、牛、羊、その他)の産地地図

主な精肉とPGI産地

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